人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

アニマル情報202X

game123.exblog.jp

アムールトラとヒグマ及びツキノワグマの関係(最も詳細な論文)

『アムールトラとクマ(ロシア極東)』

アムールトラとヒグマ及びツキノワグマの関係(最も詳細な論文)_a0326028_23394273.png

※上の画像は、右から肩の高さ約150cmの巨大ヒグマ、約110cmの巨大トラ、約130cmの大型ヒグマ、約100cmの平均的なオス成獣のアムールトラ、約100cmのヒグマ。

(2018年の論文)。

www.researchgate.net

世界トップクラスのアムールトラの研究者らが1992から2013年にかけて「トラとヒグマ及びツキノワグマの関係」を明らかにするために、それに特化した調査、研究を行ってその結果をまとめた論文の要点。

その基礎となったのは、763体の動物の死骸、430個の排泄物等の膨大なサンプル。

研究地域は、トラが多数生息する沿海地方に位置するシホテアリン自然保護区とその周辺。

調査、研究に用いられた手段は、最先端の科学技術である衛星追跡、ラジオテレメトリー、伝統的な雪上の痕跡の調査等。

(この論文の意義)。

この論文の興味深い所は、(論文の冒頭部分でも触れられているが)今まではロシア極東のトラとクマの関係を解明する事に最適化された研究は無かったが、自分たちは最新の研究手法を用いる事によりそれを行ったと述べている部分にある。

換言するなら、ロシアのクマとトラの関係については、現時点ではこの資料さえ見ておけばほぼ十分だと考えられる(世界有数の専門学者達による約20年間にも及ぶ極めて長期、かつ大規模な科学的調査は他に類を見ない)。

(情報源)。

分析に用いられたのは67個体に及ぶ関連動物から得られた情報。

トラ(雄16、雌20)、ヒグマ(雄7、雌7)、ツキノワグマ(雄13、雌4)。

全ての個体には発信機とGPS機能のある首輪が装着されていた。

vecwild.com

www.telonics.com

それ以外の動物は、専門家が自らの知見から性別等を判定した。

『調査結果』

一、(トラが食べていた動物の中のクマ類の比率)。

トラが食べていた動物の2.2%がクマ類であった(1992-2013。ヒグマ1.2%。9/763個)。

因みに、同じ組織の2005年の資料では、クマ類の比率は2.1%(1992-2003。ヒグマは1.4%)。

※1992-2013と1992-2003の違いは、サンプルが336個増加している事(427+336個)。

1992-2013の論文の詳細は以下のとおり。

(ヒグマ、合計9頭。捕食は7頭)。

(1)オス成獣(他のヒグマに殺された個体)。

(2)まだ成獣になっていないオス(3歳から4歳)。

(3)6頭のメス成獣(この内の1頭は、人に殺された個体)。

(4)ヒグマの子供。

※トラが食べていた動物の中で、トラに殺されたヒグマの比率(約0.92%。7/763)。

(ツキノワグマ、合計8頭)。

(1)2頭のオス成獣。

(2)1頭のメス成獣。

(3)性別不明(成獣3、それ以外2)。

※トラが食べていた動物の中で、トラに殺されたツキノワグマの比率(約1%。8/763。2005年は0.7%)。

(クマを殺したトラたちの性別・年齢等の詳細)。

(1)オス成獣のトラたちが8頭のクマを殺した(ヒグマが5頭)。

(2)年齢不明のオスのトラが1頭のヒグマを殺した。

(3)メス成獣のトラたちが3頭のツキノワグマを殺した(メス成獣1、性別不明の成獣1、子供1)。

(4)年齢性別不明のトラたちが1頭のヒグマと2頭のツキノワグマを殺した。

残りの2頭のクマは、トラが既に死んでいたクマの死骸を食べたもの(約12%、17頭の内の2頭)。

(クマを特に殺していたオスのトラ)。

1992から2013年の間に、トラに殺された15頭のクマの中で、5頭のクマ(約33%)は特定のオス成獣のトラに殺された(4頭のヒグマとツキノワグマの子供)。

ヒグマに限ると、殺されたヒグマの約60%(4頭)もの個体がこのオス成獣のトラに殺されている(3頭のメス成獣のヒグマとヒグマの子供)。

このトラは、1995年11月1日に捕獲された個体で測定された全てのトラの中で最大の個体(シベリアトラプロジェクトの公式最大記録で206kg)。

このオスは非常に強力な個体であり、デールという名の極めて有名な個体であった(支配領域、関係のあるメスの数の多さ等)。

The male tiger's name is Dale.

We captured him on November 1, 1995.

He weighed a bit more than 200 kg, was powerful and beautiful, judging by the territory he controls and the number of females he has (a minimum of 3 - Kuzia's mother, Natasha and Nadya).

He is a threat to all male neighbors.

www.sixote-alin.ru

The largest male captured for scientific research under the Siberian Tiger Project weighed in at 206 kg.

russia.wcs.org

二、(糞の中のクマの比率は8.4%)。

同じシベリアトラプロジェクトの2005年の資料(1992-2003。308個)では、クマの比率は7.1%であった。(その詳細は、ヒグマ1%、ツキノワグマ5.2%、不明1%)。

しかし、この資料(1992-2013。427個)では、クマ全体で8.4%と記されている。

2005年の比率を単純に当てはめると、8.4%中、ヒグマが約1.2%、ツキノワグマが約6.2%になる。

三、(具体的な戦闘例)。

トラがヒグマを襲った4事例(全てメス成獣のヒグマ)においては、その具体的内容が明らかにされている。

二つの事例においては、トラがクマを素早く殺していた(争った跡すらあまり無かった)。

しかし、残りの2事例ではメスのクマとオスのトラとの間に激しい戦いがあった。

(1)1997年7月、オス成獣のトラであるデールがメス成獣のヒグマを襲った。

戦いによって、土壌は掘り返され、森の低木は10×2mに渡って折れていた。

周囲には血や多くのクマの毛が飛び散っていたが、トラの毛もあった。

(2)2001年8月12日の事例では、トラが8歳から10歳の推定体重150kgから200kgのメスのヒグマを攻撃した。

両者は組み合って斜面を数メートル転げ落ちた。

戦いがあった場所は10×8mに渡って踏み荒らされていた。

メスを倒した後、トラは15mほど脇に下がり横たわって休んだ。

また、トラは傷口から流血していた。

四、(トラの食料中のクマの比率)。

トラの獲物の中で、ツキノワグマとヒグマの区別がつく調査資料は5つ示されているが、ヒグマの比率は一個の資料で1.2%が示されているのみ。

他の4つの資料では、全てヒグマは0%

(1)1973-1979(n=133)。ヒグマ0%、ツキノワグマ1.5%。

(2)1974-1991(n=97)。ヒグマ0%、ツキノワグマ6.2%。

(3)1992-2000(n=11)。ヒグマ0%、ツキノワグマ18.2%。

(4)2000-2007(n=35)。ヒグマ0%、ツキノワグマ0%。

(5)1992-2013(n=763)。ヒグマ1.2%、ツキノワグマ1%。

トラが食べていた合計1039個の動物の中でヒグマの数は9個(トラ自身が殺したのは7個。約0.67%)。

※全てをトラが殺したとは限らない(既にクマが死んでいた場合等)。

五、(トラの糞の分析。クマの種類の区別がつくもの)。

(1)1973-1979(n=203)。ヒグマ0%、ツキノワグマ1.5%。

(2)1980-1990(n=30)。ヒグマ0%、ツキノワグマ16.7%。

(3)1992-2000(n=91)。ヒグマ5.4%、ツキノワグマ21.5%。

(4)2000-2007(n=59)。ヒグマ0%、ツキノワグマ0%。

(5)1992-2003(n=308)。ヒグマ1%、ツキノワグマ5.2%。

※3番目の資料は、サンプルが27個の時は18.5%(1992-1995)であったが、91個になると5.4%(1992-2000)に減少した。

※5番目の資料は、2018年のこの資料と同じ著者の2005年の資料。

六、(トラの獲物を巡るクマとの関係。1992から2013年)。

36事例中の9事例において、クマはトラを追い払ってその獲物を奪っていた(25%)。

具体的には、ヒグマがメス成獣のトラから獲物を奪ったのが8回(首輪型発信機付きの個体は5頭)。

ヒグマが詳細不明のトラから獲物を奪ったのが1例。

また、種類の不明のクマがメス成獣のトラから獲物を奪うのが一回確認された(5.3%)。

ツキノワグマは子持ちのメスのトラから獲物を奪った事が一回記録されている(11.1%)。

獲物のシェアは、ヒグマとメス成獣のトラとの間で5回、ヒグマとオス成獣のトラとの間で1回観察された(16.7%)。

七、(戦いの事例)。

どのようなクマとトラが戦ったのかは不明だが、過去の論文等に記されたクマとトラが遭遇した45事例中、51.1%はトラが勝ち、26.7%はヒグマが勝った。

残りの22.2%は引き分けだった。

※基本的に過去のほかの研究者らが記した資料の引用なので、最も重要なトラやクマの年齢、性別等の詳細は不明。

八、(どのようなトラがどのようなクマを狙うのか)。

調査結果を基に著者がクマとトラの関係を論じている。

著者によると、トラがツキノワグマを襲う時は、クマの性別等はあまり考慮しないようだ。

しかし、トラが狙うヒグマはメスと子供、まだ成獣になっていないオスのみであった。

トラの中には、例えばデールのように他の動物よりもクマを殺そうとする者もいる。

しかしながら、「成獣のオスのトラのみがヒグマに立ち向かう事が出来る」と著者は述べている。

我々が、過去の資料を調べてもヒグマがメスのトラに狩られた事例は二例しかなかったと著者は記す。

因みに、秋にトラによるクマの捕食が増加するのは、恐らく、秋にはクマが太るためにうるさい音を立てて無我夢中で餌を食べているので、トラがクマを見つけ易く、また忍び寄り易くなるからだろうと論文は述べる。

九、(ヒグマがトラを捕食した事例)。

過去の複数の論文には、ヒグマがトラを殺した12個の事例が記載されている。

12頭のトラは全てクマに食べられていた(6頭は成獣、4頭は子供、残りは詳細不明)。

トラは数が少ないので、幾つかのトラの損失でも集団に影響を与え得ると論文は述べる。

因みに、現地のヒグマの食料の78.4%、ツキノワグマの食料の94.1%は植物である(クマがトラを狩る理由は殆ど無い)。

『アムールトラとクマに関する論文のまとめ(感想など)』

1.クマとトラの関係に特化した長期研究でわかった事は、トラが食べている動物の中でヒグマが占める割合は1.2%

但し、実際にトラがヒグマを殺した比率は全体の約0.9%(763サンプル中7個)。

※その詳細は、1992から2003年までが1.4%(6/427個)、新たなサンプル増加分では0.3%(1/336個)。

論文内に引用されている他の研究者らの資料でクマの種類別の比率が示されているものを合算すると、1039個の動物の中でトラ自身が殺したヒグマは7個(約0.67%)

2.ヒグマがトラの獲物を奪ったのは、観察事例の25%でシェアしていたのは16.7%。

3.トラが倒したクマで最大の個体は、推定で150から200kgのメスのヒグマ(因みに、オス成獣のヒグマはゼロ)。

4.トラが食べているヒグマの中で、トラが自分で狩った個体は約78%(20%強は捕食以外)。

5.著者によれば、ヒグマに立ち向かう事が出来るのはオスの成獣のトラのみ(恐らく、実質的にメス成獣のヒグマを狩れるのはオス成獣のトラのみという意味)。

6.オスの成獣のヒグマとオスの成獣のトラの力関係を示すデータは何も記されていない(つまり、両者が相互に避けている可能性等も考えられる)。

7.ヒグマがトラを殺した事例が12個確認されている(成獣6頭)。

『関連データ』

1.(2005年の資料)。

2018年の上記論文を出した著者が、2005年に1992年から2003年の調査結果を基に出した論文(2018年の論文と重複している部分が多い)。

www.wcsrussia.org

※第19章。

※2005年に出されたものが最初のもの。

2.(トラがオスの成獣のヒグマを避けている事を示唆する2017年の資料)。

トラは繁殖期に攻撃的になるオス成獣のヒグマとの如何なる争いも避けようとします。

しばらくしてヒグマたちが何処かに去っていくと、トラは安心して日常の生活に戻る事が出来るようになります。

It is also the time of bear weddings: adult male bears, being in an aggressive mood, claim ownership of the area they occupy.

Tigers try not to have any conflicts with such bears, and prefer to simply avoid them.

programmes.putin.kremlin.ru

3.(オス成獣のヒグマがトラの獲物を奪っている事を示す資料)。

論文内で、著者が、「(幾つかのトラを除けば)トラはオス成獣のヒグマが獲物を奪い取るのを阻止できないと思われる」と述べている。

www.wcsrussia.org

※第一章。

4.(オス成獣のトラがクマに殺された事例)。

著名なアムールトラの研究者の資料によれば、1972年にクマとトラが戦って、クマがオス成獣のアムールトラを殺している

www.sixote-alin.ru

5.(上記の資料以外で、クマがトラを殺した事例)。

アムールトラとヒグマ及びツキノワグマの関係(最も詳細な論文)_a0326028_04040187.png

1985から1990年と1991から1996年に、沿海地方とハバロフスク地方でクマが7頭のトラを殺している

Numbers, distribution and habitat status of the Amur tiger in the Russian Far East:“Express-report”.

Final Report to the USAID Russian Far East Environmental Policy and Technology Project (1996). (P28)。

6.(動物園やサーカス、人為的な戦いの事例等)。

一部に野生での事例もあるが、主に野生以外で生じたトラとクマの戦いの事例(ソースの質は均一ではない)。

https://game123.exblog.jp/20868655/


by batpope587 | 2020-04-01 00:00 | クマ対アムールトラ | Comments(0)
<< インドサイとガウルの戦い アラスカヒグマの争い >>